Works

青山居

オーナー住宅を併せ持つ賃貸住宅です。既存の見事な日本庭園と建物の関係を共同住宅として引き継いでいます。出目地を小叩きした打放しの建物です。

恵比寿・渋谷近辺の作品地図
TEXT『青山居』

青山居

映り込み

敷地は代官山の旧山手通りから、僅かに離れた斜面に位置している。
この数年街を歩く人も増え、騒がしくなってきた周辺の状況からは、想像も付かぬ深い緑に囲まれた静かな日本庭園と、落ちついた木造二階屋の住宅がそこの場所にあった。施主とご家族が、長くそこに暮らされていた住宅だった。エントランスのアプローチには美しいしだれ桜があり、庭にも幾つかの桜の木があって、親しいお花見の会には僕も父もともに幾度か伺って見事な春の風情を堪能させて頂いたものだった。その家の建て替えを手伝わさせて頂くことになり、まず考えたことはお庭のことだった。単に残すことだけでなく、どうしたら新しい建物に対して活かして行けるか、また玄関のしだれ桜は是非とも変わらぬ姿を残したい、などのことだった。新しい建築物のブロックを二つに分け、古い住宅の配置に重ね、玄関から客間に入り庭と対するまでのシークェンスを共用部のエントランスホールに反映させるように試み、しだれ桜とともにアプローチ付近には旧施主邸の面影が残るような配置を考えた。そのような以前の建物と庭が持っていたものの写しをはじめ、周辺環境や光の映り込みはこの建築物の主題のひとつとなった。壁面に落ちる陰影のみならず、庭からの照り返しや池にゆらいで反射される光の綾、ガラス面に交錯して映る建物自体や街並みの映像などの外的な要因の映り込みが美しい建物にしたかった。
図としての表現でなく、環境を映す地としてモノトーンな素材を検討し、建築物に庭の緑と水盤の反映を移し込むために水平のリブが考えられた。計画の初期に初めての第一工房とのJVに先立つ高橋同士の打ち合わせのなかで、それならば出目地を小叩きとして僅かに撥水塗装を施した打放しで行こう、と第一工房らしくもあり、らしくもない現行の仕様を提案したのは高橋テイ一だった。
その後は第一工房の方々に助けられ、紆余曲折を辿りながらも現在の建物が竣工した。
先代の雅号をとって青山居と名付けられたこの建築物は、9世帯の集合住宅である。その内には施主とそのご家族の住宅も含まれている。独立した部分として施主邸内の設計をADHの木下さんが手がけられている。施主、設計者のみならず、施工に関わった多くの技術者や職人さんたちの努力が集まってひとつの建築となった。
出来上がった建物に映る風景の反映を見るにつけ、建築に落ちる光や影の向こう側にこの建築に関わった多くの人々の意志や仕事が映り込んで来るのである。

出目地と開口

先端を小叩きした水平の出目地が外観の特徴となっている。壁面に陰影を落とし、庭の緑や水盤からの照り返しを受け、更に壁面を汚れから守るためにも計画された抽象的な水平リブの表現は、出目地を持つコンクリートの打ち放しという形で作られることとなった。
出目地の出は24、見附は先端で33、付け根で40転びは7、ピッチは200である。型枠は12ミリのコンパネに同厚のパネコートベニヤを2枚張り合わせたアンコを入れて用いた。ベニヤを張り合わせた木口は塗装している。また、型枠材は剥離剤を塗って上階に転用した。脱型の際は立体の型枠はそう簡単には外れず、外側のコンパネを外してからリブの間のフィラーを外す、という2段階の脱型となった。1層毎に型バラして組み立てなければならないので、治具を作り目地のレベルを保つようにした。
出目地は意匠的な表情を作るだけでなく、壁面に対して小型の庇としても働く。20センチの高さに24ミリの出ということは,目地を除いた16センチの壁面に対して24ミリの庇が出ることになる。これを軒高3000の建物に例えると2メーター400の高さの壁面に36センチの庇が出ているのと同じ比率になる。また、平坦な面と異なり、陰影に富む壁面の表情は汚れを目立たせない。壁面と対を成す外観上の要素のひとつに、主要な居室に繰り返し用いられた窓がある。出目地ともに切り取られた開口内の面内に設定された面から飛び出す一種の出窓である。周辺の壁面と45ミリのクリアランスを取って、出目地の先端より更に100ミリ出されている。これは主には、質感の強い壁面を垂直に穿って飛び出す立体をはめ込むことで、開口と壁面の対比をより明確に表すという表現上の必要性に基づいているのだが、実用としては窓下部には躯体との隙間を利用してヴェンチレーターが設けられ、窓を開けないままでの自然換気も可能にしている。
一般のサッシに対しては、出目地を躯体開口から30逃がし外壁と面ぞろに納めている。