Architect

煉瓦とスペースシャトルのあいだ

TOTO通信1998年2月号

外装タイルの厄介な点は、イメージに組積造の尾テイ骨が付いていることだ。「煉瓦タイル」のように、そのものを伝える製品もあるほどだから当然とも言えるが。機能的な役割は躯体の保護なのだ。もちろん機能的なものにもスタイルが必要だが、組積の必要はないはずだ。むしろ、3次曲面で作られたスペースシャトルを覆う鱗のようなタイルのイメージこそ現代的なタイルの用法を伝えるべきものかもしれないと思う。組積造のイメージを伝える理由は規則的なタイルの寸法と目地にあることは間違いない。煉瓦や組積石の寸法は、現在も規定されているし、建築の部分と全体を作る単位やモジュールという考えは、古典的で正統なものだ。規則的に刻まれたタイルの目地は、それらを思い起こさせると同時に、かつて石や煉瓦によって作られて慣用句化したスタイルをも呼び起こすのだろう。それで「マグサ」や「笠置」、出隅などに納まりを欠いた建築物は、なにやらマナーを欠いているように見えてしまうのだ。それとは別に、スペースシャトルのタイルの様に、表面に異なる物を貼ることで、本体の持ち得ぬ強度や耐久性、あるいは意匠性を持たせる、という方法も健康な合理性に満ちている。技術的にも日本の鎧やサンドペーパーのように、柔らかい本体に固いチップを貼って複合的な強さを持たせるという方法がある。意匠的には衣服のスパンコールのようなものである。そうなると、タイルはモジュールに基づいたピースの必要はなく、形も大きさも自由なチップでよい。拡大して見ればヒル石の吹き付けや、骨材入りの左官仕上げなどはそんな役割を果たしている。組積石から吹付け材までは両極端だが、その両極端の間に現代のタイルは居場所を探すのだろう。個人的には、より後者に近づきながらも深い質感に富んだものが欲しい。例えばランダムパターンのモザイクタイル、色も形も大きさも質感もバラバラで、シートの継ぎ目もバレず、もちろん使える値段のもの、そんなタイルがあれば楽しいと思う。