道具学News99年8月号に掲載の加筆修正
この金尺は、僕が仕事をする上でなくてはならない現実的な道具です。
市販の金尺と定規である点は変わりないのですが、この定規は周辺を水研ぎし、四隅の角を丸くして、端部をわずかに反らしています。
通常定規とは寸法を測るための道具である。と考えられています。寸法を測るためにあることは間違いないのですが、道具と考えるとき、少し具体的な補足がほしくなります。誰が、何を、どんな場合に、何処で、どうして、の類です。僕の場合仕事は建築の設計です。華奢な紙の上に書かれた図面の寸法を測り、模型の寸法を測り、参考となる実際の物の寸法を測り、現場では型枠や鉄筋の寸法を測ります。いずれの場合も定規を素手で握って使います。これらの場合に市販のままの金尺では道具としてかなり問題があります。まず不用意に素手で触ると痛く、下手をすると怪我をしてしまいます。トレーシングペーパーやスチレンボードにも角が当たると穴があきます。薄すぎて机の上から取り上げられません。それで改善のため上記のような加工を施しました。
定規が、机上で使える優しさと現場でも使えるタフさを併せ持てば、手に馴染んでいつでも使える良い道具となります。測る作業はもちろん、トレペを切る、封筒を開ける、カッター定規に使う、指示する、ホチキスを外す、ネジを回す、背中を掻く、などの仕事の日常になくてはならないものとなります。
適度にしなるので、水平に貼った図面を定規を手に握ったまま測れます。ポケットにいれても服が破けないので持ち運びが楽です。図面、模型、現場と設計のあらゆるフェイズにこれ一本。特にペーパーナイフとしては秀逸で、エッジが二つある(四角い)買ったままの定規ではきたなくなってしまうトレペの切り口が綺麗かつスムーズに切ることが出来ます。
僕の事務所ではこの定規を侍の刀になぞらえて「建築家の魂」と呼んでいます。