Architect

タマゴとニワトリ

AXIS 28 1988年7月

テープディスペンサーは言うまでもなく巻かれたテープを使う道具です様々なデザインのものが出回っていますが、基本的な形式はほぼ同じものです。
芯(紙管)に巻かれたテープを逆廻りに回してテープを取り出すために、何らかの方法でテープの回転を保持させる訳ですが、大抵の製品は中空になっているテープの中心部に、アダプターを入れ、失われた中心に改めて軸を取り付けることでテープの回転を保持しています。つまり、テープの製造過程を逆に再現している訳です。従ってアダプターやホルダーはテープの寸法にあわせた専用となります。
様々なヴァリエーションは出来てもディスペンサーに基本的なイノベーションが見られないのは、それだけリング状に巻かれた粘着テープという道具の完成度が高く、補助器具の形式など、目的に対してあまり問題とならなかったということなのでしょう。
このテープディスペンサーの試みは、中空のリングという一般的なテープの形をそれ自体の支持に用いることで、ディスペンサーの形の一部としたものです。
長い物を軸に巻き付けて使うことは、糸巻きやトイレットペーパーに代表されるように一般的な方法です。その中でも、ロープや硬いワイヤーなどを別にすると粘着テープの類は大抵軸でなく比較的大きなリムに沿って巻かれています。多くのテープディスペンサーがアダプターを要するのはそのためです。
ですが、逆にそれを利用して周辺を2点保持することで回転の中心を柔らかく固定させることも出来たのです。
テープを何に巻くかの議論はさておき、リング状に巻かれたテープ、というものがなければこのテープディスペンサーもあり得ませんでした。
そういう訳でこの試作品は「タマゴとニワトリ」と名付けました。