Architect

2つのエコ・プロジェクト

2006年7月

以前から考えている二つのエコ・プロジェクトをご紹介したいと思います。
いずれもヨタ話と言われそうですが、僕には実際出来そうにも思える話です。お酒の席で人に話したことは何度かありますが、書いたりするのは初めてです。
ひとつは都心に畑を作ること。もう一つは自動車の廃熱に関する話です。
都市の温暖化が進み対症療法としての屋上緑化の必要性が言われています。屋上に植物を植えるのは良いのですが、環境だけでなく、もっと人の生活にも役立つ方が良いと思えます。それなら食べられる植物で緑化すれば、もっと良いじゃないかと考えました。食べるためには誰かが取りに行かなきゃならない、もちろん手入れも必要です。ひとがいちいち行くならほかにも出来ることがありそうです。そこで何が出来るのでしょうか?自家用の家庭菜園だけの話ではなく、都市環境という大きな問題を前にした話なのですから経済的にも方法論的にも、ある量を前提とした一般性を持つものでなければなりません。
そこでこんな仕組みを考えました。

東京空中農協プロジェクト

例えば超高層のように大規模な建築物の屋上に畑を作るという計画です。
まず、設計段階から計画に組み入れられなければなりません。
それにはこの計画が単なる屋上緑化のヴァリエーションではなく、永続性と事業性を持って収支計画に組み込めるものでなければなりません。そういう点で事業組合での受注が望ましい。かつこの計画の実行自体が事業組合を必要とします。
それゆえの「東京空中権農業協同組合」なのです。
建築物を建てるときその大きい小さいに関わらず、必ず屋根が必要となってきます。規模の大きな建築物の多くでは防水工事と言われ、10年ないし15年の保証を必要とする工事です。どんな立派な建物も雨が漏っては使い物になりません。建設工事で非常に気を使う部分です。
空中農協は、まず性能発注で建物の屋上防水を請け負います。しかも10年15年などのせこい保証ではなく、契約の続く限りの防水保証をします。防水工事、あるいは屋根工事を兼ねて畑も作ります。
契約の見返りは屋上の使用権です。最低10年最長50年くらいのオーダーでしょうか。使用権を得た空中農協は屋上の防水施工の上に架台を設け一層上部に屋根作り、その屋根を畑にします。
屋根には一定量の土が入れられ過剰の雨水は濾過されたうえ、下階つまり建物屋上から排水されます。いわば畑は屋根(屋上)の上に載せた二重の屋根となるわけです。畑(屋根)の下と屋上の間の縁の下のようなスペースは、建物屋上防水の維持と農作業のための必要施設に一部を使わせてもらいます。それ以外の場所は建物メンテナンスのためのクレーンやゴンドラの収納、給排気等の設備など建物本来の必要施設が使います。
農作業のための必要施設とは、資材置き場、更衣室、小さな作業室(事務所)、UB(最小限の水回り)、畑への出入り口、規模によっては物資の上げ下ろし口、雨水の一時貯留タンク、屋外作業場などが考えられます。そして肝心の農業ですが、通常の農家ではあまり作られていない野菜や果物、香辛料の類を完全有機農法露地栽培で優れた品質のものだけを作ります。
例えばいろいろな種類の唐辛子や、御菓子などを作るのに必要なベリー類、
その他少なくても安全で高品質、その上新鮮なものであれば必ずニーズのある、つまり高くても良い物なら売れる、そんな野菜を作ります。
販売先は、都内の高級レストラン、(空中農協)クラブ会員などの固定予約客だけに即日
デリバリーします。
農作のことばかり書きましたが、都市の温暖化防止と二酸化炭素の削減を目指した屋上緑化として有効なことは言うまでもありません。
また、防水保証とどんな関係があるかと言えば、まず簡便な露出防水を行った本体の上に屋根をかけて畑にします。屋根の下からの漏水は作業場から目視で確認できますし補修も出来ます。また本体の防水も常に確認及びメンテナンスが可能です。畑の維持要員は防水維持要員でもあるのです。
人手がかかるということを利用した物に頼らない保証システムなのです。
建物オーナーが、このシステムの利点を理解し、テナントと同じ賃料を取ろうなどと考えないことが重要です。建物オーナーは屋上工事費の上乗せ分に対して、長期に渡る漏水保証、屋上緑化の維持、熱負荷の軽減、屋上に設置する設備機器やメンテナンス機械の風雨日照からの長期的な保護などを得るわけです。
屋上使用権に対する賃料は維持管理経費と相殺、原則無料とします。

ビジネス街で高層ビルの上階に消えた男が、畑仕事と所定の点検を済ませ、再びスーツに着替えて帰ります。彼こそが都会の百姓です。その夕刻、レストランのデートで食べた野菜は、いましがた彼が送り出したものかも知れません。

次は自動車の話です。都市温暖化の大きな原因の一つに自動車からの排熱が挙げられます。
ずいぶん効率が良くはなったと言え、自動車のエンジンのような内燃機関は燃やした燃料のエネルギーの大半を熱として排出しています。
また、どなたも夏の炎天下に駐めておかれた車の殺人的な暑さをご存じだと思います。それに比べてタクシーなどのエアコンの効いた車の寒いくらいの温度。ヒートポンプと言われるエアコンはその温度差分の熱を車外に放出しています。もちろんエンジンの熱排出とは別に、エアコン負荷の増えた分エンジンは通常よりも熱を出し続けます。
不要な熱をゴミと考えてみて下さい。車や住宅のように、個人や企業が専有化出来る場所のゴミを、すべて道路や河川などの公共の場所に捨てていたらどうなるか。僕たちはひどいゴミだらけの環境をかき分けて暮らさなければならなくなります。
夏の熱環境に関するかぎり、僕たちは換金可能な場所の廃熱をすべて捨てられた (少なくとも現在は換金不可能な)環境の中で暮らしているのです。
すべてを一度に解決することは出来ませんが、自動車エアコンの廃熱を少しでも減らすためのアイデアを考えました。

車に着せる服

車に服を着せるといっても第一の目的は車に汗をかかせるための工夫です。
簡単に言えば水を蒸発させて車を冷やすという計画です。人間が服を着たり汗をかくことによって体温調節し世界のあらゆる環境に順応してきたように車にも同じことをさせてみようと言うわけです。
しかし、汗をかかせるのはひとつの具体的な目的なのですが、自動車というもの自体がもう少し人や環境に開いた、文字通り柔らかいものになっても良いのではないか、という考えが根底にあります。ですから「車に着せる服」は中間的な手段なのだと僕は考えています。

暑い日に庭やテラスに打ち水をすると気化熱で温度が下がります。同じようにに車のボディに打ち水出来ればかなり効果はありそうです。ところが自動車の金属の表面は水をはじくので打ち水してもあまり効果がありません。ボディの表面に保水させ、水を気化させることが出来れば打ち水効果は成果を上げられるでしょう。巨大産業の生産物である自動車のボディを保水できる材料に変えるのは至難の業です。けれども表面だけ保水させるなら布を被せて水を撒く、という方法で達成できます。そこで自動車の表面に副次的な機能を与えるための服という考え方が出てきます。
頑丈で保水性のある布で立体裁断された自動車のコスチュームです。二重になった服地の内部には細い穴あきチューブが縫い込まれていて、ポンプで送られてきた水を車のボディ全体が濡れるよう、まんべんなく行き渡らせます。
水は車内かトランクにポンプと共に小さなタンクを備え付け、必要に応じて補給します。
止まっていても有効ですが、走っている車は風を受けて更に効率が上がるはずです。これで、エアコンの負荷を相当下げられると思います。
更に、普及すれば都市の熱源を減らせるだけでなく、たくさんの車から多くの水が空に返せるので都市温暖化の抑制に効果がありそうです。また、その他の効果としては車が傷つきにくくなります。と言うより傷つきやすい表面が見えなくなるのですから傷そのものを気にしなくて済みます。
ボディの断熱性を上げる効果もあります。建築では推奨されている外断熱の手法が自動車にも応用できるようになるのです。

この先の話はちょっと微妙です。
合理的な目的を持って自動車に着せる服が社会的認知を得たとしたら、ある意味でそれは自動車自体のデザインを否定することにもつながるのですが、車のファッションという新しい産業につながるかも知れません。そこには自由な発想を持った個人や小さな企業がいつでも参入出来る市場です。
もし市場があればの話しですが。
何やら悪趣味な連想しか思い浮かばないのですが、それはその方面に対する僕の発想の貧困さを示しているだけです。
60年代のロンドンではヒョウ柄の毛皮(かフェイクファー)を屋根に貼ったミニ(最近モデルチェンジしたイギリスの名小型車)が走っていたそうです。
ちょっとかっこよくありませんか?
そんなサブカルチャー的な発想がメインストリームを動かす契機になる可能性もあるのです。しかも環境問題は産業の流れを越えた避けては通れぬ時代のトレンドかそれ以上のテーマと考えなくてはなりません。
車の服が行き渡り、紛れて走っている普通の車が「やだあの車、裸じゃない!」なんて思われる時代になれば都市の温暖化はだいぶ良くなっているんじゃないでしょうか。